1980年、秋 神宮外苑絵画館前にいた。

1980年秋、私は東京神宮外苑の絵画館前にいた。

大学野球のリーグ戦を見て夕暮れまで外苑にいたのだ。

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夜になると当時有名な「ホープ軒」と言うラーメン屋(当時は車で移動する屋台だった)が

あり、夕方から夜中までの営業で人気を集めていた。

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現在はラーメンで街の活性化をするぐらい「ラーメン」人気は世界的なものだが
当時は街のラーメン屋さんは大抵ご夫婦での家族経営だった。

私は東京の醤油味のラーメン(中華そば)が好きでよく食べた。

ちじれ麺とスープ、チャーシュー、メンマ、ネギ、が乗っている至って

シンプルなラーメンだ。

トッピングの具や麺の種類、ラーメンスープの味や種類を競うような

現在のものとは違っていた。

私は夜、下宿近くの、西武新宿線の野方駅の近くにリアカーで来る夜だけのラーメン屋さんによく行った。

確か1杯180円だった。4人しか座れない座席だがサラリーマンでそれなりに賑わい、

折りたたみの椅子なども準備されていた。

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ラーメン屋なのだが、チャーシューをつまみにお酒を飲む人も多かった。

中年のサラリーマンなどは相当酔い長居をしていた。

私はいつものジーパンにワークシャツでネクタイをしたサラリーマンを少しいいなと思った。

私も卒業して普通のサラリーマンになるのだろうか?

酔ったサラリーマンの横でラーメンを食べながら思った。

「学生さん、飲めよ」とよく酔ったサラリーマンに言われた。
ところが私は当時から所謂「下戸」である。

「すいません、ありがたいのですが、アルコールがダメなんです」と私。

「タバコでも吸えよ」「すいません(ダジャレではありません)、タバコは高校でやめました」などと

実に内容のない会話が続く。

店主はただ黙ってにこにこしているだけ。

そうこうしているうちに、Wさんというサラリーマンと仲良しになった。
Wさんは東北の出身で南九州の私と話が合ったのかもしれない。

「九州には行ったことがなし、1年中暑いんだろう」とWさん。

「私の故郷にも雪が降りますよ」と私。

そうか、雪が降るのかと言って、コップ酒をあおった。

池袋にある会社に勤務していたWさん。

店主によると毎日のように来るそうで50代後半の感じを受けた。
「学生さんよ、俺の息子ぐらいだな」実際高校を出て上京して就職して真面目に働くサラリーマンだ。

「サラリーマンは気楽な稼業と言うけれど」と聞いたことのあるフレーズをよく使った。

「学生さんよ、何を勉強してるんだい」「経営と言うか、経済と言うか」と私。

「そうかい、大変だな」「いいえ、勉強していないので大変ではないです」と私。

「俺は高校しか出ていないが、大卒はいいぞ」「そうですかね」
「そうさ、俺の会社でも大卒は出世しているぞ」

「それは人によりますよ」と私。

店主によればWさんは奥様と離婚して1人で生活しているらしい。
養育費の支払いもあり好きなお酒も屋台らしかった。

Wさんは声が大きく、いい人なのだが所謂中年の酔っ払いだ。

しかしWさんの言葉には妙な説得力があった。

あまり長い話しをしない。言葉を重ねて言うだけだ。
「いいぞ」「そうだ」「思ったようにやればいいんだ」などなど。

しゃべりすぎないところが魅力だった。

私はやたらと言葉を重ね、どうしても相手を説得しようと意気込む。

しかしそれは「なにも言っていないこと」だと悟るのに30年以上かかった。

ボブディランの名曲「風に吹かれて」もまさしく簡単な言葉の繰り返しで世界中の人に愛される不朽の名作となった。

Wさんはその後会社を辞め、故郷へ帰った。その後は一度も会っていない。

当時携帯電話があればよかったのにと思うこともあるが、Wさんは私にとっては今でも

野方の屋台で酔っ払ったままのWさんである。

あれから40年が過ぎるのだからWさんは天国で酔っ払っているだろう。

フォークソング世代の私は今でもアコーステックギターを弾いている。

家族からはうるさいと言われるが。

ボブ・ディランの名曲「風に吹かれて」など家で弾いているが、困ったことに40年前にバイトして買った、私の「タカミネ」のギターがチューニングをしてもチューニングが狂うのだ。

私はひと夏バイトして「タカミネ」のギターを買ったが、今はバイトが出来ないのでどうにかして新しいギターを購入したいと思っている。

豊田勇三さんの「ギターが友達」、友部正人さんの「一本道」、ウッディガスリー著書
「ギターを取って弦を張れ」などの曲や本を弾いたり、読んだりしている。

私はWさんの歳を超えたが、今でも酒も飲めないし、タバコも吸わない。

野方の屋台の店主はどうしているだろう。

案外、真面目なサラリーマンで企業の執行役員でもしているかもしれない。

私の還暦前の微かな願いはチューニングが合うアコーステックギターを買い家族がいないところで大声を出し

ボブ・ディランの「ライクアローリングストーンやハリケーン」を歌いたいと思っている。

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ところで、今「まちゼミ」と言う商店街活性化の事業をやっている。
「初心者の為のフェースブック入門編」なるものを受講した。

ツイッターもラインもやらない私だが、フェースブックに挑戦中だ。

現代人には簡単なのだろうが、私にはアコーステックギターのFコードを

押さえるよりはるかに難しい。

次回はフェースブックについて能書きでも述べようと思っている。

2016年、やはり秋は1度しかない。

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